| みなさんは、おたんじょうびのおいわいをしてもらったことがありますか。 ケーキを食べて、プレゼントをもらって…ぎゃくに、みなさんがだれかのおたんじょうびをおいわいしてあげたこともあるかもしれませんね。 みなさんがよく知っている“うちゅうせんかんギャラクティックジョーズ”の中ではせいだいなおたんじょうび会が１年になんどもなんども開かれているのです。おどろきましたか？ 楽しいことが大すきな、ギャラクティックジョーズの司令官さん（ジンベエさんの名前はみなさんも聞いたことがあるでしょう）は、月ごとに、おたんじょうび会をそれはにぎやかにひらくのです。その日には、その月におたんじょうびがある人の名前がよばれて、むらさきいろのリボンがきれいにむすんであるプレゼントの箱がジンベエさんからわたされるのでした。 箱の中にはほっぺたのおちそうなほどおいしいおかしが入っています。ジンベエさんはだれがどんなおかしを好きなのかよくしっています。ですから、ジンベエさんからのプレゼントはのりくみいんのみんなの顔をニコニコの笑顔にするのでした。プレゼントはもらったというそのことだけでもとてもうれしいことです。もらってニコニコ、開けてニコニコ。おたんじょうび会はプレゼントをかかえたニコニコ顔の人でいっぱいです。 ひと月に一回おたんじょう会があるなら、一年には何回おたんじょうび会があるでしょうか。一年は12個の月でできていますから、12回のはずですね。でも、ギャラクティックジョーズで開かれるおたんじょうび会は13回なのでした。実は、ジンベエさんのおたんじょうびだけはとくべつにみんなでおいわいをするのです。みんなジンベエさんが大すきですし、ジンベエさんもおいわいをしてもらうのが大すきだったからです。 その日には生クリームをたっぷりとつかった天井まで届くような大きなケーキが作られます。甘くて大きなイチゴもかざってあります。ところどころにむらさき色のおさとうもかかっています。そして、ジンベエさんの大好きなどらやきや『とらやのようかん』もケーキをかざっています。ドラムロールの音がはじまるとジンベエさんがケーキの前に立ち、ファンファーレが鳴るとケーキにリボンでかざられたナイフをいれ、フラッシュがたかれてきねん写真がとられます。（なんだかけっこんしきみたいですが、そういうことは気にしてはいけません） そしてぶとうかいが開かれます。大きなホールにまいむまいむの音楽が流れみんなが大きなわになって１時間以上もおどるのです。（ええ、バターになってしまいそうなくらい、ぐるぐるぐるぐまわりながら楽しくおどるのですよ） そして花火。花火一すじ50年という親方に教えをうけたじょうむいんの５尺玉のれんぞく打ち上げはみんなの目をくぎづけにします。 それからプレゼントの時間。みんながおくってくれたプレゼントをジンベエさんはその場で開いて、バサリとマントをひるがえし、うでを天にむかってさしのべたり、かんげきのあまり顔をおおったり、美とあいのめがみさまにかんしゃしながら（いっぱんに、それをおーばーあくしょん、といいます）それはそれはステキなかんしゃの言葉をおれいに言ってくれるのです。ジンベエさんもニコニコ、みんなも一人残らずニコニコ。 この日はギャラクティックジョーズの全員がニコニコなので、しあわせいっぱいの日なのです。 さて、おまつり大すきあまいもの大すきのジンベエさんのことをみんなは大すきでしたが、ふくかんさんのことも同じくらいに大すきでした。 ふくかんさんは、ジンベエさんとちがって、にぎやかなことがあまりすきではありませんでした。ジンベエさんのおたんじょうび会のときにも、 『どうかジンベエ様がヘンなものをよび出しませんように、はめをはずしませんように、じこがおこりませんように。どうか…』 といのるような顔で（じっさい、ふくかんさんは心の中でおいのりをしているのですよ！）はしゃがないでみまもっています。月ごとのおたんじょうび会でもどちらかというとむすっとした顔をしています。 でも、みんなはふくかんさんが本当はやさしい人だと知っています。なぜって、おたんじょうびがくると、ふくかんさんはきれいなもようのついたあつがみにきちょうめんな字で、心のこもったことばを書いたおたんじょうびカードをひとりひとりに欠かさず書いてくれるのですから。ふくかんさんのあたまのなかには（ジンベエさんもそうなのですが）ギャラクティックジョーズのみんなのおたんじょうびがいつなのかしっかりとはいっているのでした。 ある日、オペレーターをしているこうほうし（←ふみんしょうの人です）さんが、あることに気づいて、おやっと首をひねりました。 ふくかんさんのおたんじょうびはいつなんだろう？ 毎月のおたんじょうび会でふくかんさんの名前が呼ばれたことは今まで一度もありません。きまじめでえんりょぶかいふくかんさんのことですから、よばれないようにジンベエさんにたのんであるのかもしれません。 そこで、こうほうしさんは、ろうかでぐうぜんに出会ったふくかんさんに軽いきもちで聞いてみたのです。 「ふくかんどの、ふくかんどののおたんじょうびはいつなのでしょうか。」 すると、ふくかんさんはちょっと困った顔をしたあと、ほほえみながら静かな声で言いました。 「わたしは捨て子だったので、たんじょうびがいつなのかわからないのですよ。」 こうほうしさんは頭をがぁんとなぐられたような気がしました。悪いことをきいてしまったと思い、顔はすうっとまっ青になってしまいました。すると、ふくかんさんはポンポンと肩をたたいてくれました。 「気にしないで下さい。おどろかせてしまったようですまない。」 こうほうしさんはそう言ってもらって少し元気になりました。でも…気にしないでいるなんてことはできなかったのです。 こうほうしさんは、おともだちにこの話をしました。そして、話しているうちに、 「ふくかんさんのおたんじょうび会をしてあげよう。ほんとうのおたんじょうびがいつなのかわからなくても、ふくかんさんが生まれたことをみんなでおいわいしてあげよう」 ということになったのです。 はでなことが好きではないふくかんさんですが、やっぱりささやかでもおいしいごちそうを用意してみんなでプレゼントをあげてクラッカーを鳴らしておいわいしてあげたい……こうほうしさんのおともだちは別のおともだちにそのことを話しました。そして、そのおともだちはまたべつのおともだちに…半日もたたないうちに、ギャラクティックジョーズではたらいているひと全員がこのことを知って、そしてさんせいしたのでした。そして、それぞれがプレゼントを用意しはじめました。 こうほうしさんはまくらを贈ることにしました。ふくかんさんの目の下にくまができていることがあるからです。『富士安眠枕工房』（←ふじあんみんまくらこうぼう、とよみます）の技術でふくかんさんにぴったりのまくらをつくってぐっすりねむってもらう。ふくかんさんのよろこぶ顔をそうぞうしながらこうほうしさんはいっしょうけんめいまくらをつくりました。 にわし（←ギャラクティックジョーズでは「にわし」というのも正式なかいきゅうなのです。本当ですよ！）のゴンじいさんは、“ぼんさい”をつくりました。わび・さびのきいたふくかんさんのイメージにぴったりの木です。こうごうせいの力をきょうかした植物ですから、部屋の中の空気をきれいにしてくれるはずです。 ふくかんさんちょくぞくの人たちは、えいようざいやひじょうしょくりょうを工夫してつくりました。え？ゆめがないですって？……みぢかにいる人たちは何が必要とされているかをよくわかっているものなのですよ。 ギャラクティックジョーズをはなれている人にも連絡が伝わりました。全国かくちで文化や技術をまなんでいる人たちは、自分のわざをふるってプレゼントを作ってギャラクティックジョーズに送りました。西陣織の財布、江戸切子のグラス、輪島塗の器に天童の将棋駒。高崎の達磨。鎌倉彫のお盆、彩色済みのハウルのフィギュア（←どこで何のしゅぎょうをしているのでしょう…）。 運んできたのはクロネコさんやペリカンさんやカンガルーさん、そしてゆうびんやさんたちです。 しざい部のせきにんしゃさんは、クロネコさんにはネコ缶を、ペリカンさんにはしんせんなお魚を、カンガルーさんにはおいしい草を、ゆうびんやさんにはクッキーを用意してとっておきの日本茶をいれてねぎらってあげました。みんなはとてもよろこびました。とくにお茶を。せきにんしゃさんはお茶をいれるのがとてもじょうずだったのです。 せきにんしゃさん自身は、香りのよいお香をプレゼントにしました。ふくかんさんにはリラックスする時間が必要だとわかっていたからです。 どうしてだかわかりませんが、とにかく連絡がはいってプレゼントを用意した人たちもいます。 とっとりさきゅうではまっ白なウサギが、『たわらまんじゅう』の箱をかかえて海を見ていました。口に指を入れてぴいっとゆびぶえを鳴らすと大きなしらさぎさんがおりてきて箱を足にぶらさげて空に上っていきました。ペリカンさんいがいでも荷物をはこぶ鳥はいるのですね。 イナバさんはふくかんさんのことをちょくせつには知りませんが、ふくさかんさんがどういうひとなのかというはなしは風にのってイナバさんの長い耳にはいってきていました。イナバさんはまじめで優しい人が大好きなのでぜひおくりものがしたかったのです。 遠くはなれた別の世界では、むやみにはでなお姉さんが、鼻いきあらく、とてもはばひろの長いまっかなリボンを手にしており、横で、（外見は）とても可愛らしい青いかみの女の子がやれやれといった様子でそれをながめていました。 「シーマ。自分にリボンを巻いてどうする気だ。」 ……どちらにせよ、あちらの世界には行けないので、放っておいてもがいはないでしょう。 さて、みなさんはここでふしぎに思いませんか？ええ、そうです。ジンベエさんがどんなプレゼントを用意したのか、まだ書いていませんよね。実は、ジンベエさんはみんながふくかんさんのたんじょうび会のじゅんびをしていることすら知らなかったのです。 もちろん、みんなはあちこちでじゅんびをしていましたから、そこにジンベエさんが通りかかった時など、晴れやかな2000万ドルの笑顔で 「何をしているのであるか♪」 ときかれることは何度もありました。でも、みんなはたんじょうび会のことを知らせなかったのです。みんなで話し合ってそうしたわけではありません。でも、みんながみんな、 『ジンベエさまが知ったならおたんじょうび会がものすごくはでなおまつりさわぎになってしまってふくかんさんはこまってしまい、それどころか何回も何回もあごを落としてしまうことがおこるに違いない。』 としゅんかん的に思ったのでした。……ひんぱんにあごを落とすふくかんさんの姿を見つづけてきたみんなは、ふくかんさんのあごかんせつのことをとても心配していたのです。 ジンベエさんは不思議でした。みんなが何かかくしているのはなんとなくわかりました。…いままでジンベエさんはかくし事を一度もされたことがありませんでした。なのになぜ…？ 『きらわれるようなことをしたのだろうか。いや、それはない。私はかんぺきなしれいかんであるはずではないか！』 ジンベエさんは一生けんめい考えました。考えて考えて考えつづけてそれでもわからなくてなやみながらずうっと考えつづけたのです。ですから、いつもは何かしらとても楽しくていじょうにステキなこと（ふくかんさんにとってのやっかいごと、ともいいます）が起こりつづけけるジンベエさんのまわりは、今はしん、とぶきみなほどに静まりかえっていました。 そして、その一週間後におたんじょうび会の日がやってきました。夕食のとき、みんな、一個ずつかくし持っていたクラッカーをいっぺんにならし、目を丸くするふくかんさんに 「いつもありがとうございます。今までおいわいできなかったふくかんどののおたんじょうび会を今からさせていただきます。」 小さなケーキが運ばれ、いつもよりちょっぴりごうかなごちそうがならべられ…心づくしのプレゼントが渡されます。 ふくかんさんは静かにほほえんでいました。でも、とてもよろこんでいることがみんなにははっきりわかりました。なぜっていつもまゆとまゆの間にあるたてじわがきれいにきえていたからです。ふくかんさんはみんなにお礼をいってくれました。お礼のことばのさいごで、ふくかんさんはちょっと目のところに大きな手をやりました。ふくかんさんほどの人が泣くなんてことはないのでしょうけれど、それでもやっぱりなんだか目がうるんでいるように見えました。みんなニコニコ、ふくかんさんもニコニコ。 とてもステキでしあわせいっぱいのおたんじょうび会でした。 …ところが、一人だけニコニコしていない人がいました。 そうです。ジンベエさんです。ジンベエさんは夜おそくなってからふくかんさんの部屋にやってきて言いました。 「ブルー、すまぬ。今日はきこうのたんじょうび会であるというのに私は何もプレゼントを用意できなかった。上官としてはずかしいぞ！皆はごくひりにじゅんびをしていたようなのだが…彼らは私をもおどろかせようとしていたのであろう。たんじょうび会にサプライズはつきものだからな。……しかし、司令官たるもの、ごくひのじゅんびをあばけなくてどうしたものであろうか!!ああ、許してくれ。」 しょんぼりと肩を落とし、マントのすそもかすかにしかゆれていないジンベエさんにふくかんさんは言いました。 「お気になさいませぬよう。…それに私はすでにジンベエ様からのおくり物をいただいております。」 「む？私からのおくり物…？」 一しゅん、考えたジンベエさんでしたが、次のしゅんかんにはわっはっはと笑っていました。マントはせいだいにはたはたとはためいています。 「うむ。そう言ってもらえるとありがたいいぞ！わたしはよい部下をもった！わたしはしあわせ者であるな!!」 ジンベエさんは高らかに笑いながら去っていきました。 （ブルーよ。きこうの心、むねにひびくぞ。……つねひごろ、私から受けている、てきかくでやんごとなき“しどう”の数々を“おくり物”と言うとは。うむ、うむ、あっぱれであるぞ！わが“しどう”は確かにすぐれているが、はっきりとことばにされるとこそばゆいものであるな!!） ふくかんさんは確かにジンベエさんからおくり物をもらったのですが、それはジンベエさんが思っているようなことではありませんでした。 ジンベエさんが、何が起こっているのか一生けんめいに考え続けた一週間…その間は、ふくかんさんにとって、あごが落ちるようなめんどうなことは一度も起こらなかったのでした。 ジンベエさんにわずらわされることなく、毎日ゆっくりと食後のコーヒーを味わえた心安らかな一週間。 それこそがジンベエさんからの何よりステキなおくりものだったのです。 …そして、実はそれがほかのどんなおくりものよりふくかんさんにとってはきちょうなものだったのでした。 おしまい |
おまけ ３日が過ぎました。司令官室に呼び出されたふくかんさんは、入るなり盛大に顎を落としました。 ……そこには縦横高さすべてが２メートルはありそうな四角い箱がありました。うす紫の包装紙で包まれ、濃い紫のリボンが結んであります。 「待たせたな!!これが私からの誕生日プレゼントなのである!!自信作なのでな、心して開けるように」 ジンベエさんは晴れやかな笑顔で、得意げに少しそり返るようにして立って居ます。ふくかんさんが箱に近づくと… ゴトゴトゴト…… 何か中から音がします… ふくかんさんは平穏な日々が完全に終わりを告げたことを確信しました。 でも・・・ お誕生日はいいものなのですよ。だって一人の人のことを考えることから始まって皆のの心がが繋がる日なのですから。皆の心が優しい気持ちで一杯になる日なのですから。 たとえそれが顎関節に負担をかけるものであっても! ふくかんさんは覚悟を決めて、紫色のリボンを解きはじめました。 頑張れ！ふくかんさん！ みんなふくかんさんを応援していますよ！ こんどこそほんとうに、おしまい |
| 掲示板来訪888人目でいらした探偵ぺんぎん様よりのキリリクにして10万HIT企画開始更新。お題を頂いたときに即座に思いついたのがジンベエから巨大なプレゼントを貰っている副官だったのですが、やっぱりたまには幸せMAXなひと時も作ってあげねば、と前半部を付け足しました。…本当は絵本のようにイラストをつけたかったのですが、私には無理でした… サイトを閉じるまでにあと１本は「ば」の字の長めの話をかかねばならないと思っております。 ひらがなばかりでだいぶ読みにくいと思いますが、探偵ぺんぎん様、どうかお納め下さいませ。 |
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