丁度おんなじ

　　　　　丁度おんなじ　

　「くっ・・・・」
　「うっ・・・・」

　翠の髪の子供と、それより濃い緑の髪の年かさの子供が向かい合い、テーブルの上に肘をつき、腕相撲をしている。先程から何回か両者とも均衡を崩そうとして仕掛けていたが、一方が優勢になるかと思えば相手が巻き返し、今は机に対して垂直の位置で腕は微動だにしない。疲労が貯まり、次に仕掛けてそれが失敗したら自分が逆に負けそうだ、と両者とも動けないでいるのだ。

　「ヨファ！頑張ってッ！」

　年下の男の子の後から黄色い服を着た少女が叫ぶ。

　「そうだ！負けるな！」

　ヨファの兄のボーレはギュッと拳を握り、自分が腕相撲をしているわけでもないのに顔を真っ赤にして檄をとばしている。ボーレの上の兄のオスカーは穏やかな声で、杖使いのキルロイと一緒に、“どちらも頑張れ”、と励まし、ヨファと仲の良い天馬乗りのマーシャも声援を送る。ヨファの弓の師匠の捻くれ者のシノンは酒瓶を片手に面白くなさそうに観戦していたが、親しい者が見ればその眼差しに暖かさがあるのがわかっただろう。ヨファは兄弟や親しい人たちの声を耳にし、皆応援してくれてる、頑張らなくっちゃ、と感覚がなくなりかけてふるふると震えている拳にギュッと力を入れた。

　一方、ヨファと対戦している少年――サザ――は仕掛けるタイミングを探っていた。・・・ヨファは、サザより随分と年下であるが、かなりの弓の使い手である。盗賊を生業とし、鍵開けばかりしているサザより底力はずっと上だ。正直、自分はもう限界に近い。……そもそも何だって俺は腕相撲なんてやってるんだ？ああ、あいつが、やろうぜ、やろうぜ、と無理矢理引っ張り込んでくれやがったんだ。全くもう、あいつは・・・

　「サザー！ファイトぉ！」

　期せずして大音量で自分の名を呼ばれ、一瞬サザの注意がそれた。その途端、ヨファは手首を切り返してタン！と勢い良くサザの腕を倒した。レフェリーをしていたダラハウがヨファの腕を高々と上げた。

　「勝負ありなのね～！子供の部の優勝はヨファなのよ～～！」

　わーっという歓声が起こり、酒を飲んでいた大人たちも割れんばかりの拍手を送った。

　「２人とも頑張ったのね～！ダラハウ嬉しいのよ～、これは賞品なのね～～」

　照れるヨファの前にダラハウは色とりどりの飴が入った大きなビンを魔法のようにすっとどこぞから取り出して置き、サザには真っ赤なつやつやしたリンゴを２つ渡した。

　ヨファはニコニコしながら兄弟達が待っている少し離れた席に戻り、長兄のオスカーと二言三言言葉を交わすと早速コルクでできた蓋をとって飴を１つ口に入れ、それから自分を応援してくれた身近な人々に飴を配り始めた。その様子をぼんやりと眺めていたサザは、どどん、と背中を叩かれて咳き込んだ。振り向くと炎の魔法を使う魔道士の少年トパックがそこに居た。

　「サザ、惜しかったな！でもすっごくいい勝負だった。おいらなんかセネリオには余裕で勝てたけど、ヨファには一秒もたずに負けちゃったもんな。やっぱ、サザ凄いよ。」

　お前のせいで負けたんだ、という言葉を飲み込んだサザは、笑顔で自分に向かって喋り続けているトパックを見、手元のリンゴを見、１つを無言でトパックに差し出した。

　「くれるのか!?」

　「ああ。」

　「おいらに？」

　「ああ。」

　「サザ、有難う、お前、いい奴だな！」

　ゆっくり頷いたサザにトパックは目をうるうるさせ、リンゴを握り締め、そのまま腕を大きく振り回して叫んだ。

　「ムワリムー！サザがおいらにリンゴをくれた～!!」

　トパックの育ての親兼保護者兼同志であり、長い時間を共に過ごしてきたラグズ、虎族の青年ムワリムはゆったりと微笑した。
　人々の視線が自分達の方に集まってサザは果てしなく居心地の悪さを感じたがトパックはそんなことは気にしてはいないようだった。、トパックはキュキュッと袖でリンゴを磨き、そのままリンゴにかじりつくかと思われたが急に腰につけたもの入れの中にしまった。

　「・・・喰わないのか？」

　「あ、いや、あとでリュシオン王子に持っていこうかな、と思ってさ。」

　「…あの鷺王子か。リンゴなんて喰うのか？」

　「わかんない。でも、木の実を食べるっていってたから。リュシオン、ここんとこ、具合良くなさそうだし。・・・あ、折角貰ったのに、おいらが食べなかったらサザ、怒るか。」

　盗賊の少年は心配そうなトパックを見てむすっとした。

　「・・・別に。俺がお前にやったもんをお前がどうしようとお前の勝手なんだし。…それより、ほら、お前のとこの虎のおっさん・・・」

　サザが指差した方を見ると、先程ヨファとサザが腕相撲をしていた場所で、ムワリムと斧使いの戦士ラルゴが向き合っていた。元気ものの剣士、ワユが声を張り上げる。

　「じゃあ、今日のメインイベントだよ！文字通り、力持ち頂上決戦！この間はつかなかった決着を今、ここで！怪力無双の斧戦士、ラルゴおじさんと、ラグズ随一の力持ち、虎族のムワリムさん！」

　ラルゴは手を高々とあげて声援に答え、ムワリムは姿勢正しく一礼した。

　「応援しに行かないでいいのか？」

　「うん！そうだな！こうしちゃいられない。サザも一緒にこいよ！」

　襟首をつかまれひっぱられたサザは、何で俺が、と思ったが、トパックの方は上機嫌でサザを掴んだままムワリムの斜め後に陣取った。ラルゴのそばには大勢の男たちが居た。賭博好きのマカロフが薄汚れた袋と木札を持ってを持ってちょこまか動いているのは賭けのとりまとめをしているに相違なく、妹のマーシャが大きく大きくため息をついた。
　一方ムワリムの近くにはあまり人が居なかった。ラグズではレテ、ライ、モウディたち獣牙族の戦士たち、ベオクでは剣士のツイハークが居るくらいだ。それを気にしてのことか、ラルゴとごく懇意にしているがトパックとも仲の良い、魔道士のカリルや槍使いのダラハウはラルゴとムワリムの中間に居て声援を送っている。

　「いっつもあんたは詰めが甘いんだから気をつけなさいよ。」
　「ラルゴ、全力を出し切るのよ～～。」

　トパックはラルゴを応援する二人に向かって叫んだ。

　「カリル先生！ダラハウ！今度こそはムワリムが勝つからなー！」

　カリルとダラハウは顔を見合わせて笑った。カリルが優しく言う。

　「トパック、何にせよ、きっといい勝負になるよ。ここは２人に楽しませて貰おうじゃないかい。さあ、２人の真剣勝負、あたしらも真剣に応援するよ！」

　「ああ！」

　トパックは少し前のラルゴとムワリムの力比べのことを思い出した。どれだけ荷物を持てるか、ということで、大きな木箱を何個も背負い、樽をのせ、人を乗せ、…しまいには載せるものの方がなくなってしまい、ラルゴがそこに転がっていた鉄の大釜、ムワリムがはしゃいで観戦していたミストを載せ、そこまで載せたあと、２人ともギブアップして決着がつかなかったのだ。ラルゴもムワリムも引き分け、と言っていたが、トパックは釜よりミストの方が重かったと今でも思っている。
　勝負に勝ったらムワリムがこの軍の中で一番の力持ちということになる。ラグズ奴隷の出身ということで、今でもどこか一歩下がって俯きがちに黙々と働くムワリムが一気に皆に認められるようになるに違いない。そして、大きな偏見はないにしてもやはりベオクとラグズの間に横たわっている深い溝を少しでも埋められるようになる。ラグズの仲間達が胸を張って歩けるようになるのだ。

　だからトパックは今度こそムワリムに勝って欲しかった。

　「ムワリムー！頑張れー！おいらが付いてるぞー！」

　トパックの声にムワリムは頷いたようだった。２人の男は肘の位置を決め、がっちりと右手を組み合わせた。ワユが彼らの手の上に自分の手のひらを重ね叫んだ。

　「準備はいい？よーい！始めッ！」

　ぐっと太い腕の筋肉が盛り上がり、血管が浮き出た。２人の腕はびくとも動かない。ぎり、と奥歯を噛み締める音がし、２人とも眉根に皺を寄せている。最初は歓声や野次を浴びせていた酔っ払い達もいつしかしんと静まって勝負の行方を見守っている。ラルゴもムワリムも微動だにしない。

　みしみしみし・・・・

　何か音がした、と思う間もなく、酒場のテーブルがばりん、と物凄い音をたてて裂け、二人はもんどり打って床に倒れた。ワユが、“あちゃー”という顔をしたが、嬉しそうに叫んだ。

　「引き分けッ！永遠のライバルの決着はまた次回に持ち越しだねッ！皆、拍手、拍手～!!!」

　それに続いてラルゴが声を張り上げる。

　「はっは！ムワリム、あんたはやっぱり強いな！さすがだぜ！おう、みんな、応援ありがとうな！ここは一杯俺に奢らせてくれ！」

　うぉー、という歓声が上がった。ラルゴはわっはっはと笑っていたが、カリルに魔道書の角で頭を殴られた。

　「全く、どこをどうすりゃ腕相撲でテーブルを壊せるのさ!?弁償モノだよ！それに気前がいいのは悪いことじゃないけど、はぁ・・・こんなんじゃあんたの念願の店とやらを出すのはいつになっちまうのかねえ。」

　ラルゴはバラバラになっている机の様子を見て頭を掻いた。

　「すまねぇ。壊す積りはなかったんだが…」

　と、ツイハークが言った。

　「木が弱っていたのだろう。幸い、割れているのは天板２枚だけだ。ムワリム、材料さえあればすぐ修理できそうだ。」

　「そのようだな。ツイハーク、すまないが手伝ってくれるか。」

　「ああ、こういったことは得意な方だ。」

　ラルゴは、はあ、と息をついた。

　「俺は細かいことは苦手でな。すまん、修理の方は頼む！俺は酒場のオヤジに話をして侘びがてら薪割りでもしてくるさ。」

　トパックはムワリムに手伝おうか、と声をかけたが、“坊ちゃんは魔道の勉強をしていらして下さい”と追い返されてしまった。トパックはリュシオンにサザから貰ったリンゴを届け、その後はムワリムに言われた通り、カリルから宿題に出されていた古代語の勉強を月明かりで始めた。少ししてヨファがやってきて、トパックにも飴をくれ、2人して黒砂糖でできた飴を舐めた。ヨファが帰り、勉強が一段落し、トパックが大きくのびをして天幕に戻ると、いつの間に戻ってきたのか同じ天幕に割り当てられたサザが眠っていた。トパックも眠りについた。

　トパックは夢を見た。

　夢の中で、彼はムワリムとラルゴの勝負の場面に居た。そこではムワリムは力比べでも腕相撲でもラルゴに勝っていた。周りの人々も凄いな、ラグズの力は大したものだ。と揃ってムワリムを誉めそやし、トパックはムワリムに肩車されてはしゃいでいた。

　『おいらのムワリムはいつだって一番なんだ。誰にだって負けない一番なんだぞ！』

　次の日の朝、眠った時間は遅かったはずなのに、トパックは夜明け前に目が覚めてしまった。瞼を閉じても眠くならず、ならば、とそっと天幕を出、静かにキャンプ内を歩いていくと、炊事場の脇でゴロンと地面に転がっている鉄釜に出くわした。

　（あの鉄釜が、あのミストっていう女の子より軽かったらムワリムの勝ちだったんだよな。…どうなんだろう。あの子、おいらより背は低いけど、幅はあるよな。おいらとあの子だったらあの子の方がおいらより重いんじゃないのかな。待てよ、だったらおいらと釜はどっちが重いんだ？）

　トパックは両腕で鍋を抱え、持ち上げた。・・・かなりの重さだ。

　（・・・っていっても・・・おいらはおいらを持ち上げられないんだから、比べられっこないじゃないか！）

　ひゅん、と風を切る音が少し離れたところでした。見ればツイハークが素振りをしているのだった。この青年剣士とはあまり話をしたことがないが、ベオクと殆ど話をしないムワリムがこの青年とは親しいのをトパックは知っており、感謝し、好感を持っていた。ムワリムの友達に悪いベオクがいるわけはない。

　魔道士の少年に見つめられているのを感じたツイハークは剣を莢に収めた。

　「おはよう。トパック、随分早起きだね。」

　「おはよう、ツイハークさん。」

　「・・・・・・その鉄釜はどうしたんだい。」

　トパックは抱えたままだった鉄釜をその場に下ろした。

　「こ、これは、さ。ちょっと鍛えようかと思って。」

　「？君は魔道士だろう。腕力を鍛えてもどうかと思うのだが…」

　「ほ、ほら、おいら、将来軽器（←短刀系の武器）くらいは扱うかもしれないだろ。カリル先生から、少しは鍛えておいた方がいいって言われて・・・・な、なあ、ツイハークさん、おいらとこの鉄釜、どっちが重いかな。」

　「・・・・・・？君と？」

　「あ、ええと、そ、そう、そうなんだ。カリル先生が、自分と同じ位のものを持ちあげて鍛えるのが一番だって言ったんだ。なあ、どうだろう。」

　ツイハークは“失礼するよ”と言ってまずトパックを抱き上げ、下ろし、それから次に鉄釜を持ち上げて下ろした。

　「大丈夫。丁度同じくらいの重さだよ。」

　「！そうか！有難う！修行の邪魔しちゃってゴメン！じゃ、おいらこの釜を戻しに行くよ！」

　なんだか嬉しくなり、鉄釜を元の位置に戻すと、トパックはにまあと笑った。

　（これでムワリムが勝っていたってことだよな。）

　だが、あることに気付いてはっとした。

　本当に自分よりミストは重いのだろうか。もしかしてミストの方が軽いということはあるのだろうか。もし、ミストが軽かったらムワリムの負けだ。
あたりが騒がしくなった。炊事場で朝食の準備が始まったのだ。トパックはすっと食材の入った木箱の陰に隠れた。人はどんどん増えてくる。トパックが予想していた通りにミストも大きな声で挨拶をして炊事場に現れた。

　（なんだかおいらより随分ふっくらしている気はするんだけど・・・でも、見かけだけじゃわかんないんだよな。サザはおいらより細いけど、結構重い。怪我したサザを背負って走ろうとしたとき走れなかったもんな。筋肉は重いって話だけど、あの子はあんまり筋肉ついていなさそうだし。）

　ミスト本人が聞いたら“何考えてるのよぉ！”と烈火の如くに起こりそうなことをトパックは思った。そして、つい言葉として口に出た。

　「おいらよりあの子、重いのかな。どうなのかな・・・」

　「おはよう、ん？体重がどうかしたのか？」

　背後から降ってきた声にトパックはぴく、と背をそびやかした。後ろに居た大きな影はラルゴのものだった。

　「おはよう。いや、ちょっと気になっただけなんだ。なんてことないよ。」

　「そうなのか？何だ、何だ、なんてことないなんていって妙に顔が暗いなあ。気になったんなら調べりゃいいじゃないか。」

　何をするんだろう、と、トパックが訝る間もなく、ラルゴはミストを呼んだ。

　「あ、ラルゴさん、おはよう。何ですか？きゃッ！」

　ラルゴはひょいとミストを肩に担ぎ上げていた。びっくりしているミストを他所にトパックを逆の肩に担ぎ上げる。

　「わ、何、何!?」

　「おう！驚かせてすまなかったな。朝一番の肩慣らしみたいなもんだ。・・・いやぁ、お前さんたちじゃ鍛えるにはちょいとばかり軽すぎるな。でもいい筋肉ほぐしになったよ。ありがとうな！」

　地面に下ろされるとミストは“びっくりしたー”と言いつつ笑った。

　「ラルゴさん、すっごく見晴らし良かった！じゃ、あたし朝ごはんの準備があるから。」

　ミストが行ってしまうとラルゴは

　「丁度きっかり同じだったぞ。」

　と言った。

　「お前さんが何を気に病んでるかは知らんが、あの子とお前さんは丁度同じ重さだった。」

　「丁度？」

　「ああ、全くな。これでお前さんの心は少しは軽くなるかな？だったらいいんだがなあ。」

　トパックはラルゴを見上げた。ここでラルゴが嘘をつく必要はない。ラルゴが同じ重さだったと言えばそれは正しいことなのだろう。

　「ん、どうしたどうした、ぼーっとして。」

　「なんかさ、・・・おいら、昨日、ムワリムがラルゴに勝てなくてとっても口惜しかったんだけど、今は引き分けになったことが嬉しいような気がしてきた。次に力比べをやるときがきたら、おいらはやっぱりムワリムに勝って欲しいけど、ラルゴとなら引き分けでもいいかもしれないな、なんてちょっとは思う。」

　「おいおい、勝負はいつだって真剣なんだから、俺も、手抜きなしだ。そこんところは間違えないでくれよ。」

　「・・・おいら、羨ましいのかもしれないな。おいらには永遠のライバルとかまだ居ないし。・・・腕力ないから力比べなんてできないし。」

　「んー。だったら魔法で勝負すりゃいいじゃないか。」

　「カリル先生が、魔法は気安く使っちゃいけないって。」

　ラルゴはがははと笑った。

　「こりゃあ、一本取られたな。前にカリルからそんな話を聞かされた気がする。確かに魔法についちゃあそうだ。だがな、腕力がなくったって、勝負はできるだろう。そうさな、お前さんは俺とだって互角なところがあるんだぞ。」

　「ええッ!?ど、どんなことさ。」

　目の前にいて、朝日を遮って自分をすっぽりと影に隠している、ベオクとしては途方も無い巨漢のラルゴのどこが自分と互角なのだろう。

　「そうだな。例えば、俺がカリルを大切に思う気持ちとお前がムワリムを大切に思う気持ちとどっちがでかいか。どうだ。どっちがでかい？」

　「そ、そんなの、くらべられっこないさ。」

　「ああ、どっちもその気持ちは途方も無くでかい。途方も無くでかいものどうしを比べたらそれはきっと同じってことだ。少なくとも俺の頭の中ではそうだ。俺は頭が悪いから理屈を捏ねられると訳がわからなくなっちまうし、カリルから『馬鹿だね、あんたは』って毎度言われちまってるんだが、お前は俺の言うことがわかってくれるか。」

　トパックは頷き、まっすぐにラルゴを見上げる。

　「なんとなく。・・・世の中には比べられない、いや、比べちゃいけないものがあるってこと。でも、それが『同じ』場合には勝負しても比べてもいいってこと。そのときは引き分けになって勝敗はつかないけど…そういうことかな。合ってるかい？」

　ラルゴはムワリムと同じくらい大きな手でわしわしとトパックの猫っ毛をかき回した。

　「そういうこった！いや、カリルのお気に入りの坊主なだけある！おおっと」

　ラルゴはトパックの後ろにやってきた誰かに向かって声をかけた。

　「ええっとお前さんは、そう、サザ、だ。おはよう！」

　サザは挨拶はせず、ほんの少し頭を下げただけだった。

　「どうしたんだ、サザ？」

　「・・・お前が居なくなっていて虎のおっさんが心配している。」

　「あ、ゴメン。じゃ、ラルゴ、おいら、天幕に戻るよ。有難う。」

　「ん？俺は何かお前さんにしてやったかな。」

　「うん。いろいろと、さ。じゃ！」

　「どうだい。あたしの弟子はいい子だろう。」

　一部始終を見ていたらしいカリルがラルゴの横に並んだ。彼女は目を細めてサザと並んで早足でかけていくトパックを見ている。

　「ああ。いい育てられ方をして、いい育ち方をしたんだろう。」

　「10年後が楽しみだね。まっすぐなところをいい形で残したまんま、大人の男になってくれると嬉しいんだけど。・・・・本当にまっすぐな子なんだよ。・・・・それにいらいらさせられることもあるんだけれどねぇ。あ～あ、考えてみりゃ、あたしはうんざりするほどまっすぐな男にしか惚れこむことはないんだねえ・・・」

　無言のラルゴの腕をカリルはつねった。

　「うおッ！何すんだ。」

　「自分の女の惚気に気付かない男ってのはいくらまっすぐでもちょいと困ったもんだ、ってことさね。」

　　＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

　トパックはサザと喋りながら歩く。

　「おいらとサザがうまい具合に張り合えることって何だろうな。」

　「・・・いきなり何だよ。」

　「鍵開けとか腕力はサザの方が上だろ。魔法とか走るのとかはおいらの方が上だろ。なんかいい感じに同じくらいのものってないかな。」

　サザは何かを見つけるまでトパックは喋り続けるのだろうな、と思い、ならば自分が何か発見したら煩く喋るのを止めるかもしれない、と、真面目にこの魔道士と自分の共通項を探してみた。歳が同じくらい、背格好が同じくらい、種族が同じ、性別が同じということ以外に何も思い当たらなくてげんなりしたのみであった。やけになって言う。

　「お前が俺に『友達になろうぜ』っていった回数と、俺が『嫌だ』って言った回数なら確実に同じだ。」

　ぼそりと吐き捨てると、トパックは

　「そっかー！そうだな！それなら丁度おんなじだ。」
　
　と目を輝かせ、一瞬の後にきょとんとし、

　「それって全然嬉しいことじゃないじゃん！」

　と目を吊り上げた。

　「・・・・・なあ、何意地張ってんだよ。友達になったっていいじゃんか。」

　「い・や・だ。」

　サザは少し先を行き、トパックは少し膨れて、しかしサザにまとわり付くように歩く。
　今でも2人は同じだけ持っているものがある。しかし2人ともそれに気付いちゃいやしない。

　「なあ・・・・友達になろうぜ。」

　「だから、嫌だって言っているだろう。」

　友達なんて“なろう”、と言ってなるものではないことも。

　

　蒼炎には検索サイト様があるのですが、キャラクター名で検索すると数多くのサイトが表示される場合と全く表示されない場合があります。で、駄文を書き始めた当初、プレイヤーキャラクターで１件もかからなかったのが、チャップ、ダラハウ、そしてこのラルゴさんたち。おかしいなあ、みんな良い人なのになあ、と思い、誰も書かないのなら自給自足、とばかりに書き始め、今回はラルゴさんです。彼は「獣人であるラグズと人間であるベオクは対等でなければならない」と主張をぶち上げることはありませんが、彼のようにラグズに対して（というより誰に対しても）変わりの無い行動をすることこそが、重要なのではないかと私は思っています。
　ラルゴさんに関しては、ムワリムおよびダラハウ（そしてタウロニオ）と会話があり、会話はなくともカリルさんとは公式に深い仲で、ムワリム、ダラハウ、カリルのそれぞれと仲が良いのがトパックで…ということで、ラルゴさん＆トパックの話になりました。サザが出張っていますが、トパックとサザの会話が最後まですれ違い風だったのでそれを補完…といえども、まだまだすれ違いそうです。（ゲームではこんなに仲が悪そうな支援会話も珍しいと感じてしまいました）
　この間、ラルゴさんが登場する漫画をネットで拝見し、小躍りし、そこにトパックやダラハウやサザも出ていたので濃厚に影響を受けたかもしれません。もし似通っていたらすみません。

尚、ゲームではトパックの方がミストよりも体重が重いことになっていますが、その設定を無視しております。ご承知おきください。

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