みんな、知ってる


　ぱからっ、ぱからっ、と軽快な音をたてて、駿馬が街道を駆けてくる。傭兵団の砦の傍らにある小さな菜園でさやえんどうを収穫していたキルロイは、やってきた人物を見て首を傾げた。

　「どうしてケビンさんが…」

　そうするうちにも、いつもの如く赤い鎧を纏ったクリミア騎士、ケビンはこちらに疾走してきてキルロイを認めると馬から降り、大声で挨拶した。

　「おお、これはキルロイではないか！久しぶりだな！」


　「ケビンさん、お久しぶりです。お元気でしたか。」

　「うむ！オレは元気だったぞ！なんといってもクリミア騎士だからな！」

　（騎士だからといって、誰でもいつでも元気というわけではないと思うのだけれど…）

　キルロイは苦笑しつつも麦藁帽子をとって微笑んだ。旧友に会える事は嬉しいことだ。

　「よし！再会の記念にオレの華麗な斧さばきをまた見せてやろう！そりゃ！うりゃ！はッ！ぐはッ！？」

　キルロイは急いで建物に入ると杖を掴んで出てきて、ケビンが背に負った傷（どこをどうやれば自分でそこに切りつけられるのか不明）を癒してやった。

　「…すまん。またやってしまった。騎士として、騎士として不甲斐ないッ！」

　放っておけばそのままさめざめと泣き出しそうなケビンの肩をキルロイはトントン、と叩いた。

　「…いいんですよ。こうして杖を使えば、僕も修行になりますから…」

　と、途端にケビンは笑顔になった。

　「そうか！うむ。オレは役にたてたのだな！」

　「そ、それよりも今日はどうなさったのですか。何か王都で困ったことでも？」

　「うむ。…悪いことではないのだが、困ってはいるな。」

　「はあ…」

　ケビンは声を落とし（それでもその声はキルロイの声より大きいくらいであったが）青年神官の耳に囁いた。

　「実はな。エリンシア姫の密命を受けて来たのだ！」

　密命…にしては目立つ鎧に身を固めてここまでやってきたのはどうかと思うが。

　「そうだ、キルロイにも聞いておこう！実はな…」

　キルロイはケビンにあることを訊ねられ、一瞬考えたが、笑いながら答を返した。

　「うむ。そうか。参考になった。他の人々にも聞いてみなくてはな。スマンが傭兵団の方々は家におられるのだろうか。」

　「…今出かけている者もありますが…オスカーが厩に、その、右手の建物に…」

　聞くがはやいかケビンは厩に突進していった。

　「おお！我が永遠のライバル！オスカー、貴様、元気だったか！」

　愛馬にブラシをかけていたオスカーは、昔馴染みの突然の来訪に、細い目を丸くした（といってもやはり糸目にしか見えなかったが）。

　「ケビン。随分と突然だね。王都で何が？まさか謀反でも起きたのかい？」

　「いや、王都は我々クリミア騎士の活躍によって、平和を保っているぞ！」

　「それはなにより。」

　「うむ。俺も平和への尽力を認められ、ジョフレ隊長の下で一階級昇進したのだぞ！」

　胸を張るケビンに向かってオスカーはゆったりと微笑んだ。

　「そう。それはよかったね。私からもお祝いさせてもらうよ。おめでとう。」

　その穏やかな笑顔を見、ケビンはぐしゃ、と自分の髪をかき乱した。

　「うおおお、このような辺境で、騎士を捨てて暮らしている貴様に、何故か負けている気がするのは気のせいか？気のせいなのか？」

　オスカーは慌てて話題を反らした。

　「で、どうしてここまで。何か私達に用事なのかい。アイクは剣の修行の最中なのだが。」

　「いや、アイク殿にはできぬ話でな。…実は名誉なことにエリンシア姫からの密命を負って来たのだ。」

　「は？」

　ケビンは声を落とし（やはりそれは大声に近かったが）、キルロイにしたのと同じ質問を“永遠のライバル”に向かって厳かに告げた。オスカーはくすっと笑い、返事を返した。

　「む、ムゥ。そうか。先程キルロイからも同じことを言われたのだ。」

　「ああ、それに間違いないよ。…でも、エリンシア様は想像していたのと全く違う答で、戸惑われるかもしれないね。」

　ケビンは腕組みをして唸った。

　「確かにな…他に…他に無いのか？」

　と、蹄の音がして白馬が厩に牽かれて来た。近隣の村の見回りを済ませてきたティアマトだった。

　「おお、これは傭兵団副長殿！」

　「ケビン殿？」

　ティアマトはケビンから事情を聞き、彼の問いに答えた。彼女の答えも前の二人と全く同じであった。
　来客に気付いたミスト、ボーレ、ヨファ、セネリオ、ワユ、ガトリーが入ってきて、斧騎士は皆に同じ質問をしたが、揃いも揃って同じ答だった。

　「うううううう、それ以外には無いのか!?姫にどうご報告すればよいのだ！」

　ワユが言った。

　「あたしは新入りだからまだ大将のことはよくわからないけど…」
　「ううん、おにいちゃん、とってもわかり易い性格だから、ワユさんが見たとおりだよ。」
　「僕も他のものはわかんないや。ボーレはどう？」
　「うーん。思いつかないな。」
　「１つでもわかったらいいんじゃないっスか？」
　「僕も同意見といわざるを得ません。」

　ティアマトが気の毒そうに言った。

　「力になれなくてご免なさいね。…でも、アイクのことですもの。それでなくても一向に構わないと思うのよ。ね、そう思うでしょう？」

　ガトリーがうんうんと大きく首を上下に振って頷き、オスカーとキルロイが微笑み、ミストがにっこり笑った。

　と、いつの間にやら少し離れた所に立っていたシノンがぶっきら棒にこう聞いた。

　「それを聞いて、あの姫さんはどう動くつもりなんだ？」

　ケビンは“密命”の中身を説明し、エリンシアがどうする気なのかを告げた。（←それはもはや密命ではナイ）

　聞いたシノンはにや、と口の端だけ上げて笑った。

　「だったら全く問題はねえ。」
　

　　　　　＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

　
　　それから暫くしたある日、傭兵団の“家”の前に、純白の天馬が軽やかに降り立った。

　先程からずっと空を眺めていたミストが天馬に気付き、木刀を素振りしていた兄の襟首を後から捕まえて家の前へと引っ張り出し、エリンシアの方に押し出した。

　「エリンシア。」

　クリミアの姫はにこやかに微笑んだ。

　「アイク様！お久しぶりです。」

　「……驚いた。」

　傭兵団の若き団長は、いつもと同じ仏頂面で大して驚いた様子も無く言った。

　「……傭兵団の方々にはケビンさんを通してお知らせしてあったのですが？…」

　「…聞いていない。…ああ、そうだったのか。キルロイが“今日は誰かお客さんが来るかもしれませんよ”と言っていたっけ。そして、ティアマトが“つぎのあたったシャツは着るな”と言い、ミストとヨファが花を摘んできて、オスカーが客用の部屋を掃除し、…妙だな、とは思っていた。……一体どうしたんだ。悪い知らせではないようだが。」

　「あの…以前、ミストちゃんにきいて、今日がアイク様の誕生日だと知っていたので、お祝いしたいと…」

　アイクは黙っていた。

　「…？アイク様？」

　「ああ。そうだったか。季節の移り変わりくらいは意識するが、今日が何日なのかということは、傭兵の仕事でも入っていない限り気にしていなかったからな。」

　「あの…誕生日をお祝いなさったりすることはないのですか？」

　「…いや。俺の誕生日に限らず、ティアマトやオスカー、キルロイがささやかながら祝いの席を作ってくれた。親父は団長という立場もあってその中心には居なかったが、手甲だの、肩当だのをくれたな。そうか。今日だったのか。」

　と、背後から、ミストが“お兄ちゃん、エリンシア姫に入ってもらったら？”と声をかけてきた。アイクは、ああ、それもそうだな、と答え、“こっちだ”と手を引くと、姫は“ちょっと待って下さい”と、天馬の背から何やら大きな荷を下ろしてミストに手渡した。下ろした他にも同じような包みがまだ天馬の背には残っている。

　「有難う！オスカーさんに持って行きます。天馬の世話もやっておくから心配しないで。ゆっくり休んでて下さい！」



　客用の部屋に入り、二人は立って話をしていたが、アイクは今気付いたようにエリンシアに座るよう勧めた。

　「以前、オスカーに乗馬を習ったことがあるが、あれほど肩が凝るものとは思わなかった。上空を行く天馬はもっと扱いが難しいのだろう。寛いでくれ。」

　素直にエリンシアは寝台に腰を下ろした。

　「お元気そうでよかった。」

　「ああ、丈夫なのだけが取り柄だからな。ミストやキルロイと違って俺から丈夫をとったら何も残らん。」

　エリンシアは目を細め、声をたてて笑った。

　「可笑しいのか？…いや、実際、何も残らないと思うのだが。」

　「いいえ、一杯残りますわ。山ほど。」

　「…どんなものが残るというんだ？」

　やや困惑気味のアイクの問いにエリンシアは答えなかった。エリンシアが思いつくことができる答えは星の数ほどあったが、どれを言ってもアイクはますます困惑するだけだろう。

　「まあ、いいか。…それより、さっきミストに渡していたあの荷物は一体なんなんだ？」

　エリンシアはまだくすくすと笑っていたが、真顔になった。

　「誕生日に何か贈り物を、と思い、ケビンさんに手伝って貰って、傭兵団の皆さんに、アイク様のお好きなもの、欲しいものをうかがったのです。そうしたら、どの方も同じものを答えられて…ですから、それを運んで参りました。」

　アイクは、天馬から下ろされたものの形状を思い出し、自分の好きなもの、欲しいものは一体なんだろうかと自問し、すぐに結論に到った。

　「“肉”か？」

　コクコク頷くエリンシアにアイクもまた笑った。

　「確かにそうだな。俺が直接訊かれてもそう答えるだろうな。」

　「喜んでいただけてよかった。傭兵団の皆さんに思う存分食べていただけるようにと天馬に積めるだけ積んで来ました。ルキノとユリシーズには何故か呆れられていましたが…あの二人は剣や武具を持って行ったら、としきりに勧めてくれたのですが、…何故か私、肉の塊の方が喜んで頂けるような気がして…お世話になった皆さんにも楽しんでいただけますし。」

　「ああ、確かにエリンシアの考えは正しい。俺も傭兵団の皆に喜んで貰えるのが嬉しいしな。…でも、いろいろと悩ませたか？……俺は単純な男だから、余程妙なものでもない限り、喜ばないことはない。あんたが選んでくれたものなら何だって構わない。」

　そう言葉を投げかけた瞬間、エリンシアの頬がさっと桜色に染まったが、アイクはその原因には思い至らなかったらしい。エリンシアは目に見えて動揺し、どもりながら言った。

　「あ、アイク様もおかけになったらどうですか。」

　「…そうだな。ずっと剣を振っていたので少々疲れた。」

　どっかと木の椅子に腰を下ろすアイクに、エリンシアはあ、そうだわ、と小声で言い、背にかけていたカバンを開けた。

　「アイク様…あの…私…」


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　夕食はオスカーが指揮をとり、ミスト、ワユ、セネリオ、ボーレが補助に入っていた。傭兵団の食堂にあたる場所では、炊事に参加していない連中がのんびりと座って会話している。

　「エリンシア姫かー！綺麗な人だよなー！ドレス姿も素敵だったっスけど、さっき着ていた服の方がなんだかずっと可愛いっス！あんな人が傍に居てくれたら嬉しいんっすけど。」

　ガトリーが言うと、シノンが気心の知れた仲間を彼にしては珍しく少々心配そうに見た。

　「惚れるなよ。」

　「わかってますって！相手は姫さまじゃないですか。でも、憧れるだけならいいんじゃないスか？シノンさん？」

　「……いや、あの姫さんは売約済みに近いってこった。」

　「…？」

　机にテーブルクロスをかけていたティアマトがくすりと笑った。食器を並べていたキルロイとそれを手伝っていたヨファは顔を見合わせ首を捻る。と、ボーレが炊事場からふらりと出てきて所在無げに座った。

　「あら、終わったの？」

　「いや、兄貴に追い出された。“ボーレ、お前が鍋をかき回すと野菜がどろどろになってしまう”だと。」

　ヨファが意地悪く笑った。

　「ボーレはいつだって力任せだもんね！頭使わないからそういうことになるんだよ！」

　「なにおぅ！」

　追いかけっこを始めた兄弟を他所に、ガトリーが炊事場に入っていった。漂ってくる旨い匂いに、つまみ食いとしゃれ込もうと思ったらしい。

　「それにしてもアイクたち、出てきませんね。」

　「積もる話もあるのでしょう。」

　と、アイクが一人でやってきた。

　「あら、アイク、エリンシア姫は？」

　「部屋で休んでいる。…だいぶ疲れたようだったので、夕食ができたら呼ぶ、といってきた。」

　「そう。…随分長い間話していたものね。」

　「ああ…話もだいぶしたが……“あげます”、と言われたので、喰ってきた。」

　シノンが吹いた。

　「は？アイク、お前なんて言った？」

　「ああ、喰った。」

　「……剥いて喰っちまったのか？」

　「…？ああ、多少残したがほぼ全部剥いてから喰った。剥かずに喰えるものなのか？」

　「全部剥かなくても喰えるは喰えるが…」

　おい、シノン、お前、何言ってんだ、ヒネクレ屋のスナイパーは自問した。

　「シノンは喰ったことがあるのか？」

　「・・・・・・・・・・おい、ここで喰った経験があるのはおそらく俺一人だろうが!?ガトリーは口だけだ、オスカーもキルロイもあの通りの堅物、ボーレはまだ頭ン中がガキ、ヨファはいうまでもない。」

　「…そういうものなのか。」

　「で、どうだった。」

　「俺は躊躇したんだが、あげる為に来た、と言われ、思い切って喰った。…どう、と言われても…瑞々しくて…触った感じ、やけに柔らかいと思ったんだが、歯をたてたら意外に歯ごたえがあった。」

　「噛んだのか!?いきなり」

　「？…噛まなきゃ埒はあかないだろう。」

　「……姫さんは怒らなかったのか？」

　「いや、俺も怒ったかと思ったんだ。なにぶん俺は初めてだし、勝手がわからない。がっついていて気付いたら俺の服はともかくとしてエリンシアの服を汚してしまい…でも、拭けばどうということはない、と笑って許してくれた。で、俺もそれに甘えてよく拭いてから…また新たに喰った。あれは病みつきになるな。」

　シノンは大混乱した。仏頂面で淡々と状況説明してくるアイクのこの落ち着きようはなんなんだ。自分より10近く若い青年に彼は初めて怖れに近いものを感じた。

　すると、横手からキルロイが微笑んで言った。

　「そうだったんだ。エリンシア様に頼んだら僕も食べさせて貰えるかな。」

　「…ああ、まだ余裕はあるようだったから喰わせて貰えるだろう。…喰うまでは勇気がいるだろうが、喰ったらきっとよかったと思うぞ。」

　「そうですか、だったらヨファと一緒に…」

　「ああ、ヨファも喜ぶぞ。」

　「ヨファ!?おい、お前ら、いったい何を!?」

　と、そこに話題の主が現れた。

　「ああ、エリンシア、まだ休んでいていい。」

　「いいえ、一人でぼんやりしていてもつまりませんから。」

　エリンシアは妙にわたわたしているシノンに首を傾げながらも、カバンを机に置いて、その中から黒にオレンジの不気味なだんだら模様の鵞鳥の卵ほどの大きさのものをゴロゴロと取り出した。

　「何だ？これは!?」

　「あ、初めてご覧になる方は吃驚なさると思いますが、これはクリミアのごく一部で栽培されている果物です。この通りの外見ですから口に入れるまでは勇気がいるでしょうけれどとてもおいしいんですよ。アイク様たちに食べていただきたくて取り寄せたのです。」

　「ああ、程よく甘く、素振りの疲れも喉の渇きも吹っ飛んだ。キルロイ、食べる時にはかぶりついた方がいい。ちまちま食べていると汁気が飛ぶ。…服の染み、抜けたか？」

　「はい、付いてすぐでしたから。これ、切ってお出ししたほうが食べやすいですよね。炊事場、お借りできますか。」



　ぽかんとしていたシノンがドン、と机を叩いた。

　「おい、アイク、貴様。」

　「なんだ、シノン。」

　「……お前、もっと表情を変えろ。いつも仏頂面だといろいろ誤解していかん。」

　「？？？それをいうならば、シノンもいつも怒った顔をしているだろう。どういう誤解があったんだ？」

　「……あとで教えてやるッ！」

　「ああ、わかった。…知らずに何か悪いことをしていたのなら謝る。すまん。」

　「謝るなッ！」

　果物を持って炊事場に入っていくエリンシアのあとにアイクは従った。机につっぷしたシノンが顔を上げるとそこにはティアマトの笑顔があった。

　「この欲求不満さんｖ」

　そう言ってスナイパーの額を人差し指で弾くと、副長はやはり炊事場に入っていった。残されたキルロイは心配そうにシノンの肩に触れる。

　「放っておいてくれ…」

　「…でも、何か僕にできることがあったら…」

　「お前にゃ無理だ。」


　　＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊


　アイクの誕生日にかこつけた大宴会の後、エリンシアは“庭”で夜風に吹かれていた。天馬は夜目がきかないので、明日の朝一番に帰る予定だ。と、その肩に臙脂のマントがかけられた。

　「アイク様。」

　「夜は冷える。風邪でもひかせてはルキノやユリシーズ、ジョフレに申し訳がたたない。」

　「…有難うございます。アイク様。」

　そこにほろ酔いを通り越して酩酊寸前のシノンがふらりと現れた。

　「あんた、その“アイク様”ってのはいい加減やめねえか？」

　「え？」

　「……なんか、聞いててうぜぇ。」

　そう、吐き捨てるようにいうと、スナイパーは酒瓶を片手にふらふらと遠ざかっていった。

　エリンシアは、アイクの瞳を訊ねるように見つめた。

　「俺はエリンシアの呼びたいように呼んでくれればいいと思うが。」

　「…えっと…あの…私……あのッ！『うぜぇ』んでしたら、あの…アイク、とお呼びして宜しいでしょうか。」

　「別に構わない。そう呼ばれていることの方が多い。」

　「はい、でしたらアイク…」

　「何だ、エリンシア。」

　エリンシアは顔を上げ、アイクは見下ろし、二人の視線は一直線に繋がった。

　エリンシアは頬に血が上ったのを感じた。アイクもまた、自分の身体の中に不可解な感情がわきあがるのを感じた。…しかし、宵闇は、互いの顔に起こった変化を包み隠して相手に知らせてくれようとはしなかった。『呼んでみただけです』なんて言えない。何か別のことを言わなくては。一生懸命考えてエリンシアはアイクの頭の上を見た。

　「アイク、星が綺麗です。」

　「ああ、そうだな。」

　アイクはエリンシアの肩からずり下がってきたマントを反射的に押えた結果、彼女の肩を抱くような形になった。

　「……いつになく、綺麗だな。」

　久しく星空を見上げることがなかった青年は、昔、妹とよくそうしたようにエリンシアを伴って木の根方に座り、じっと星を見上げ続けた。


　……夜が明けたとき、アイクの頭はエリンシアの膝にあり、その手と手はしっかりと繋がれていた。


　　　　＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊


　「で、シノン、この間のは一体どういう誤解だったんだ。」

　尋ねてきたアイクに、ああ、まだこいつは覚えていやがったのか、とシノンは暗澹たる気持ちになった。

　「いつか話す。それじゃダメなのか。」

　アイクはずい、と一歩前に出た。

　「ダメとは言っていない。しかし…親父ならきっと早目に聞き出した気がする。」

　「お前はグレイル団長じゃねえ。同じことをする必要もない。…あー。わかったわかった話してやる。毎度こんな風に迫られちゃそれこそ面倒だ。」

　シノンは、自分の誤解をはっきり、わかりやすく、伝えた。

　「これで満足か、ん、わ、何すんだ！」

　アイクはシノンの胸倉を掴んでいた。長身のシノンの足が宙に浮く。

　「エリンシアがそんなことを許すはずがない！俺もそんなことはしない！」

　いつもは仏頂面で表情を変えないアイクの激怒した顔を見て、スナイパーは彼には不似合いに微笑んだ。

　「そうそう、そういう風に表情を変えてみろ。……お前ら、ホンモノだってことだな。…アレコレ必要が生じたら俺に聞け。他のヤツじゃわからんことをいろいろ教えてやるから。」

　スナイパーは久しぶりに楽しい気分で、ほおを赤らめたアイクを背にして鼻歌混じりに弓の鍛錬に出かけていった。
下品ですみません！
世間で『萌え』という言葉が流行っているというのに、自サイトには片鱗もない…ということで書いてみてしかし、どこか方向性を間違った爆裂ギャグです。自分のオリジナル創作のなかではこういう類の文を結構書いているのですが、二次創作ではこんなの初めてです。（何か怪しくてバカで深読みするとあわあわします）。傭兵団のみんなはまとめて好きなので（そしてケビンも好きなので）オールキャラ。掛け合いが好きなのですが、口調などがゲーム内と微妙に違うかもしれません。しかし、ギャグは書いていて楽しいですね。恋愛霞んでシノンさん目立って…なんじゃあこりゃあ。…・失敗？

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